ベトナムでも近年、経済成長が著しく、多くの外国企業が進出するなどして急速に発展しており、同時に物価や賃金の上昇がみられるようになりました。
ベトナムでの生活や仕事を考える際には、現地でのこれらの変化を理解することが重要です。
そこで、今回は「ベトナムの物価上昇率の現状」「ベトナムの昇給率や収入事情」「ベトナムの金利」などを分かりやすく解説していきます!
ベトナムの物価は上がった?
ベトナムにおける物価上昇率は全体として増加傾向にあると見られます。
2024年の第1四半期は、「教育部門」が10.12%で最も上昇し、サービス部門の中では特に、「公証人手数料・保険およびその他のサービス」が12.59%と増加しています。
また「医薬品および医療」は6.48% 増加し、「食品および外食部門」は 4.05% 増加しています。
これら他にも「住宅・建設資材」「輸送」「飲料およびタバコ」「文化・娯楽・観光」などの部門でも1~6%程度上昇しており、2024年第1四半期の消費者物価指数は2023年の同時期と比べて3.77%上昇しました。
在住していて、それほど大きな値上がりは感じませんが、地元紙では食品の値上がり等が報じられ「物価が上がっている」と言えます。
消費者物価指数(CPI)とは
ある時点を100とした比較時の費用を計算し、比率の形(指数)で表したものです。
一般的に物価が上昇しているということは景気が良く、消費者の購買意欲(需要)が高くなっているとされます。
なぜ物価上昇しているの?
ベトナム政府の見解では「ロシアとウクライナの軍事衝突」や「中東での政治不安」や「世界的なインフレ」を理由としています。
これに対しベトナム政府と首相は、成長の促進及びマクロ経済の安定を維持し、インフレの抑制、また経済の主要なバランスを確保するための多くの解決策を実施するよう、省庁に指示しました。
さらに、政府は「賃金改革と2024年7月からの地域最低賃金の引き上げは、家庭内で消費される商品やサービス価格の上昇につながる」とし、インフレ抑制政策により「消費者心理を安定させ、インフレ期待を安定させる」と発表しました。
参照:TỔNG CỤC THỐNG KÊ/2024 年第 1 四半期の市場価格と 2024 年の消費者物価指数に影響を与える要因の予測
インフレとは
普段買っている日用品やサービスの値段(物価)が上がることです。インフレが良い循環で起きている場合は、商品やサービスの販売価格が上がったことにより企業の利潤が増え、働く社員の給与が上がる傾向にあります。
ベトナムの昇給率は?
物価が上がった際、給与も上がらないと生活は厳しくなる一方ですよね。続いては昇給率を見ていきましょう。
ベトナム政府は2024年7月1日から適用される最低賃金を引き上げの規定を発行しました。
最低賃金の額は地域ごとに決められており、各地域の最低賃金は以下のようになりました。
地域 | 最低月給
(単位:VND/月) |
最低時給
(単位:VND/月) |
地域Ⅰ ハノイ市・ホーチミン市・ハイフォン市等 |
4.960.000 | 23.800 |
地域Ⅱ ダナン市・バクニン省等 |
4.410.000 | 21.200 |
地域Ⅲ ハナム省等 |
3.860.000 | 18.600 |
地域Ⅳ 地域Ⅰ~Ⅲ以外 |
3.450.000 | 16.600 |
これにより、最低賃金は地域差がありますが改定前より約6%上昇することになります。
日本円に換算すると
時給およそ104円~150円
月給およそ2,1737円~3,1251円
が最低賃金となります。(2024年7月4日現在レート)
ベトナムの最低賃金は1年毎に見直しをされていましたが、近年はコロナウィルス等の影響により2021年と2023年は最低賃金の引き上げが行われず、今回の最低賃金引き上げは、2022年7月以来2年ぶりとなりました。
参考:BÁO ĐIỆN TỬ CHÍNH PHỦ/全文: 地域最低賃金を規制する政令 74/2024/ND-CP
国家賃金評議会とは
地域最低賃金の調整と発表について政府に助言するため2013 年 5 月 14 日付け政府の 2012 年労働法の規定に基づいて設立されました。
構成員は労働・戦傷病兵・社会省・労働総同盟の代表・中央雇用主代表組織の代表からなります。
また、ベトナムの日系企業のベトナム人雇用者に対する昇給率は、会社によって様々ですが毎年5~7%程度だと言われています。
企業によっても異なると思いますが、日本より比較的に高い水準ではないでしょうか。
ベトナム人の平均収入は?
ベトナム政府総合統計局によると「2023 年の1人当たりの平均月収は 496 万VND(=31,496円) に達し、2022 年と比較して 6.2% 増加」しています。
2023 年の都市部の1人当たり月平均収入は 626万VND(=39,751円) に達し、地方417万VND(=26,480円)の 1.5 倍近くに達すると予想されています。
南東部が 1 人あたり月平均収入が最も高い地域で、月平均収入が最も低い地域は北部および山岳地帯と予想されています。
参照:TỔNG CỤC THỐNG KÊ/プレスリリース 2023年住宅生活基礎調査の結果について
ベトナムの生活費は?
では、実際にベトナムでの生活コストはどのくらいでしょうか?
世界各国の物価水準や交通費、医療水準、犯罪率、環境汚染などをデータベース化した情報サイト「ナムベオ(Numbeo)」によると
ハノイ市での生活費は
4人家族の推定月額費用は、家賃を除いて 43,291,119.2VND(274,903円)
1人暮らしの推定月額費用は、家賃を除いて 12,393,813.2VND(78,702円)
ホーチミン市での生活費は
4人家族の推定月額費用は、家賃を除いて 44,641,977.5VND(283,481円)
1人暮らしの推定月額費用は、家賃を除いて 12,674,445.2VND(80,484.1円)
とされています。(2024年7月4日現在レート)
参考として、このサイトでの
日本の平均生活費は
4人家族の推定月額費用は、家賃を除いて 462,175円
1人暮らしの推定月額費用は、家賃を除いて 131,033円
となっています。
日本とベトナムの2国間での生活費比較のデータは、
ベトナムの生活費は日本より37.3%安い(家賃を除く)
ベトナムの家賃を含む生活費は日本より36.1%安い
ベトナムの家賃は日本より31.5%安い
ベトナムのレストラン価格は日本より45.1%安い
ベトナムの食料品価格は日本より37.1%安い
となっており、ベトナムでの生活コストは日本に比べて家賃・生活費・食費などが3割程度安くなっているということがわかります。実際に、在住している実感として食費は日本にいたころよりも2~3割安くなっています。
都市部の収入は平均以上!
先述したベトナム人の収入と必要な生活費を見て「生活費が意外と高く、平均収入では賄えないのでは?」と感じた方もいらっしゃるでしょう。
2022年の調査によると、都市部の平均月収は
ハノイ市(北部)
月収:8,700,000ドン(約49,000円)
年収:113,100,000ドン(約640,000円)
ホーチミン市(南部)
月収:9,100,000ドン(約51,000円)
年収:118,300,000ドン(約660,000円)
ビンズオン省(南部)
月収:8,900,000ドン(約50,000円)
年収:115,700,000ドン(約650,000円)
と都市部では「全国平均月収よりも高くなっている」ことがわかります。このことから、ベトナムの所得は地域によって大きく異なることがわかり、平均月収が必ずしも全国的に当てはまるものではないと言えそうです。また、
“総合統計局のグエン・ティ・フォン局長はトゥオイ・トレ氏との会談で、人口生活水準調査報告書における一人当たりの平均収入には、働いていない、仕事を持たない、またはまだ労働年齢に達していない世帯内の扶養家族も含まれていると述べた。サラリーマンの平均収入を分けるともっと高くなります。”
と、発表していることから、ベトナム人一人当たりの収入額は統計データよりも高くなる可能性があります。
実際に、都市部の日系企業など外資系企業に勤めているベトナム人の月収は日本の平均給与(およそ31万円)より高い人もおり、職種や住んでいる地域によって収入の差があると言えます。
また、ベトナムのネット銀行サービス「Timo」の生活費に関する記事によると
月収700 万~ 1,500 万VNDの会社員の生活費は、食費4.000.000 VND、住居費2.000.000 – 3.500.000 VND、習い事500.000VND、医療品250.000 VND、ガソリン代や服飾費などその他の費用1.750.000 – 3.250.000 VNDで
ホーチミンに住むベトナム人会社員の生活費は少なくとも合計850万VND(およそ53000円)以上かかると示唆されています。
ベトナムの金利政策は?
2024年5月ベトナム国立銀行(SBV)は、信用機関に対し、今年第2四半期末までにシステム全体の信用増加率5~6%目標を達成し、貸出金利を1~2%引き下げるよう要求したと発表しました※①。
貸出金利とは
貸出金利とは、金融機関(銀行等)が顧客に貸出しを行う場合の利子率のこと。
貸出金利が下がると個人消費や企業の設備投資が高まり、景気が上昇する傾向にある。
一方、コロナ禍の預金金利は下がる傾向にありましたが、2024年7月からは多くの銀行で引き上げられ、期間や銀行によっては 0.1 ~ 0.6% の増加となりました。
具体的にVietcombankの定期預金金利は最大で、60ヶ月4.70%(VND)となっています。また、12ヶ月では4.60%(VND)となっています。 (2024年7月4日現在)
預金金利とは
金融機関でお金を預けたときに、金融機関から上乗せされる金額(利息)の割合のこと。
長期金利が上昇する背景には「資金需要増加」「インフレ期待」「金融引締め」などがあります。
ベトナムの経済アナリストらは2024年7月に行われた「最低賃金の改訂」や「米ドル為替レート差」などの影響から「さらに預金金利の上昇傾向がますます明確になり、最近では上昇ペースが加速している」と評価しています※②。
金利は変動していますが、ベトナムの預金金利(利息)は日本の銀行と比較すると遥かに高く、ベトナムで働く人は、金利の恩恵を受けることも可能です。
▼ベトナムの銀行利息について知りたい方はこちらもご覧ください
ベトナムは中央銀行と政府、国が定款資本の 50% 以上を所有する商業銀行などが一体となって経済政策を進めており、経済は安定しているとされる見方もあります。
一方で、世界経済の影響、国内外の政治不安や課題、気候変動などが経済に影響を与えることも考えられます。
賃金の上昇、消費需要拡大、企業投資の増大など良い循環が生まれることがベトナム経済の進展につながっていくでしょう。
今後の具体的な経済成長政策は?
ベトナム政府が発表している2024年の経済成長政策は
観光フェスティバル、ショッピングフェスティバル、国内市場貿易促進プログラムによる消費を刺激する政策の実施
デジタルプラットフォームを通じた国内消費を拡大するための電子商取引
ベトナム製品の優先的な使用の奨励
農村部や山岳地帯の流通システムの近代化への投資
二国間および多国間貿易協定の活用、ベトナム製品の生産市場の拡大
外国人観光客の誘致、外貨獲得
宿泊、飲食、運輸、貿易、その他のサービス等の産業チェーンへの支援
外国投資資本の誘致
再生可能エネルギー、半導体チップ、社会経済発展、持続可能な経済発展、グリーン経済の役割を果たすその他の産業などの新しい分野への参入
農林水産物の品質の向上、付加価値の高い製品や輸出優位性のある製品への注力
以上のように、国内需要の拡大や外国資本の誘致、国内製品の市場拡大などの計画を立てています。
2024年上半期のベトナムのGDPは 6.42%増と発表され、政府は「2024 年上半期の雇用労働者と労働者の平均収入は、前年同期と比較して増加した」と発表しています。
実際に、ベトナムではイベントが多く開かれており、特に2024年5月31日から10日間にわたって開催された「第2回ホーチミン市リバーフェスティバル」では水上バイクやフライボードを使用した水上プログラムやダンス・歌・花火が披露され史上最大のイベント規模となり、多くの人で賑わいました。
(参照) TỔNG CỤC THỐNG KÊ/2023年の成長イメージと2024年の経済発展見通し・TỔNG CỤC THỐNG KÊ/2024 年第 2 四半期と最初の 6 か月の社会経済状況に明るい兆し
まとめ
ベトナムの経済は急速に成長しており、平均賃金も年々確実に上がり2024年7月には地域別最低賃金が平均6%引き上げられました。
また2024年第1四半期の消費者物価指数は2023年の同時期と比べて3.77%上昇し着実な成長がみられます。
政府と銀行は緊密に連携し、賃金、物価、金利に関する包括的な政策を推進しています。これらの取り組みにより、ベトナム経済はより安定し、持続可能な成長を遂げることが期待されています。
この記事が参考になりましたら幸いです。