国の宗教観は異文化を理解する上で一つの指標となり、気になる方も多いのではないでしょうか。
ベトナムは多宗教国家で憲法上も信仰および宗教の自由に対する権利が認められています。
今回は、ベトナムの宗教について詳しく解説していきます!
主な宗教
仏教(主に大乗仏教)は2021年時点で信者数が最も多く、信者数は1,400万人を超え、礼拝施設は1万8,544か所あります。
次はカトリックで、信者数は 700 万人を超え、礼拝所は 7,771 か所あります。
信者数の第 3 位と第 4 位は、それぞれプロテスタントとカオダイ教です。※政府宗教問題委員会2023年3月発表「宗教と政治に関する白書」より
大乗仏教とは?
「大乗」とは「大きな乗り物」という意味で、全ての人が救われるとされる教え。
ベトナム人は無宗教?
ベトナム人の8割が「無宗教」とするデータもありますが、これは無宗教を「敬虔な信者ではない人」としたデータです。
実際に在住してみると、ベトナム人は日本人と同様に「多宗教を受け入れている」と感じます。中国の儒教や道教の思想も強く「年配者」や「祖先」を大切にする文化があり、クリスマスやハロウィン、旧正月等の多宗教のイベントを楽しむなど日本と共通点を感じることができます。
日本と同様に仏教を信仰する人が多いため、肉食等の食事に対する禁忌はありません。また、タイ仏教(上座部仏教)のように厳しい戒律がないのでお酒の販売・購入規制などはありません。
つまり「ベトナムの宗教観はかなり日本と似ている」と言えるでしょう。
ベトナムの神様は?
日本人は「仏教」以外に「神道」を信仰する文化もありますが、ベトナムではどうでしょうか?
ベトナムでもお金や商売繁盛の神様や土地を守る神様をお祀りします。家の中やお店の片隅に仏壇のような見た目の祠を置いて信仰します。このように神様を祀っている様子は街中のどこでも見つけることができ、ベトナム人があらゆる神様を大切にしているということが伝わってきます。
ベトナムで有名な神様
土地と商売繁盛の神様(than taiとong dia)
thần tài(タン タイ)はお金や商売繁盛の神様、白いひげの老人で金の延べ棒を持つ。
ông địa(オン ディア)は土地を守ってくれる神様、大きなお腹で扇子を持つ。
2つの神様がセットで祀られている理由は「富の神と土の神は人生と密接な関係があり、人の運勢に影響を与える」という意味があるからと言われています。お店に祀られている神様は主にこの2つの神様であることが多いです。
男女3人の台所の神様(Ong Tao)
Ong Tao(オンタオ)は3人の台所の神様です。
テト(旧正月)前に各家庭に宿る神はこの日、天に戻って上帝にその家であった良いこと・悪いことを報告し、大晦日の日にまた家に戻ってくるとされており、旧暦の12月23日に魚や果物や鶏など色々な物をお供えするという習慣が残っています。
冥銭を燃やしてお供えする
ベトナムでは「道でお札に似た紙切れを燃やしている」光景を多々見かけます。
ゴミを燃やしているわけではなく、実はお供え物の冥銭を燃やして神様やご先祖様に届ける儀式なのです。
旧暦の1日と15日に燃やすと決まっています。もちろん冥銭はお供え物用に作られた偽のお金で、市場やスーパー等で購入することができます。
ベトナム人も初詣をする?
ベトナムでは西暦の新年よりも、旧暦の新年(テト)を大切にする文化の地域です。
ベトナム人も日本人と同じようにテトの新年を迎えると、お寺や神社に初詣に行きます。
参拝の作法は?
露出しすぎる服装を避ける
タンクトップやミニスカートなど露出が多すぎる服装での参拝は控え、できるだけ服装はシンプルさと礼儀正しさを重視し、明るすぎる服や鮮やかな色の服を着ないように心がけましょう。
参拝の仕方
- 線香をたき、複数回お辞儀をして供える(奇数本にする)
- お堂に入る場合は靴を脱ぐ
- 仏前で手を合わせ、複数回お辞儀をする
仏前に膝をついて祈りを捧げる参拝方法もありますが、外国人に寛容なベトナムでは、誠意をもって参拝すれば多少作法を間違えてしまっても大丈夫です。近くにいるベトナム人を見習って参拝するのもよいでしょう。
メコンデルタ地域で有名な永長寺(ヴィンチャン寺)
上記写真の永長寺(ヴィンチャン寺)は、1849年に建てられた中国とフランスの建築様式が取り入れられており、外見はフランス様式、内部は中国やタイ・カンボジア等のオリエンタルな雰囲気が感じられる豪華な作りです。メコン川クルーズのツアーに組み込まれていることが多く、観光客も多く訪れます。
敷地は広く美しい花や木が植えられ、弥勒菩薩や観音菩薩、寝釈迦などの巨大な像があります。30分程度で見学することができます。
ベトナムの冠婚葬祭
ベトナムのお葬式は賑やか
ベトナムの一般的なお葬式は日本の静かな葬儀とは異なり「歌や音楽」などを流し、食事を振舞うなど「故人のあの世への旅立ちを祝う」という文化があります。葬儀場のそばを通ると「宴会でもやっているのかな?」というほどの盛り上がりもしばしば。霊柩車も派手な飾り付けをした車で華やかに故人を見送ります。
参列時の服装も日本のように厳格ではありませんが、親族は白い服を着ます。親族でない場合は、派手なものを避けたきれいめの服装が選ばれます。
もちろん故人の宗教によって葬儀方法が異なるため、参列する際は事前の確認が必要です。
90%は火葬される
ベトナムの昔ながらの埋葬方法は土葬です。故人を埋めた後、数年後に掘り返し遺骨を取り出して再度埋葬するという伝統的な方法が今でも行われている葬儀もあるようです。
しかし、土地の問題・遺体が骨になりにくい・費用がかかる・感染症を防ぐという観点から、現代では火葬が主流になっています。
ベトナムの結婚式について気になる方はこちらの記事をご覧ください!
仏教以外の宗教
ベトナムの新興宗教カオダイ教とは?
1926 年にゴ・ミン・チェンによって唱えられたベトナムの新興宗教で信者数は約300万人~500万人いるとされています。カオダイ教最大の特徴は宗教の混合で、五教(キリスト、仏教、儒教、ヒンズー教、道教)の教えを土台としたことから「カオダイ(高台)」の名がつきました。
ベトナム南部で設立されたカオダイ教の総本山はホーチミン市から約 100kmのタイニン省にあり、豪華で色彩豊かな寺院は観光地として訪れることができます。
ベトナムでのキリスト教
ベトナムにキリスト教が広まったのは、16世紀ごろにポルトガルの宣教師がベトナムに入ってきたことがきっかけとされています。そしてフランスの植民地支配の影響を受け、ベトナムにキリスト教が広まりました。現在は人口の9%がカトリック、2%がプロテスタントという内訳になっています。
ハノイには「ハノイ大教会」ホーチミンには「サイゴン大教会」など100年以上の歴史をもつ教会があり、これらは観光名所として有名です。
タイミングによっては内部の見学も可能です。夜もライトアップされており歴史的な外観はとても美しく、一度は訪れておきたい場所です。
ベトナムのヒンドゥー教
ベトナム中部にある世界遺産ミーソン遺跡では、2世紀~14世紀にかけてチャンパ王国歴代の王達が残したヒンドゥーの神々を祀る宗教彫刻や祠堂、祭壇を今でも見ることができます。
チャンパ王国は東西交易の要所を抑えインド・クメール・ジャワとの海洋貿易を通じて、隆盛を極めたため、ミーソン遺跡ではヒンドゥー教の影響を強く受けた遺跡を見ることができます。
また、ホーチミンの街中でもヒンドゥー教寺院を見かけることができます。Agodaのデータによるとベトナムへのインド人観光客は2023年に225%増加(2019年比)しています。インド人観光客増加の一方で、ベトナムではインド人観光客向けのレストランが少ないなどの課題解決に苦戦しています。
ベトナムのイスラム教
ホーチミン1区のグエンアンニン通りにあるヒジャブ店
イスラム教は、19世紀頃ベトナムに伝わったと言われています。現在、ベトナム全国には、イスラム教信者が約2万5000人強で、南部各省に住んでいます。
ベンタイン市場の西側に位置するグエンアンニン通り(Nguyễn An Ninh)は、「ホーチミンのマレー街」といわれており、多くの観光客で賑わう通りです。
シルク製のヒジャブやニカブなどを販売する商店が多く、ムスリム系のレストランもたくさんあります。
まとめ
今回は、ベトナムの主な宗教や宗教観について解説しました。ベトナムでは信仰の自由が認められており「お寺と神様を大切にする」「初詣をする」「年配者を敬う」など日本との共通点が多くあります。それぞれの宗教の価値観を尊重し合い、理解することが大切です。
ベトナムにはお寺や教会など歴史的に価値のある建築物や世界遺産が数多くあります。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。